鈴木みきの忖度なしのモニター報告《前編》オボズって、なに? -first impression-

鈴木みき

イラストレーターなど

 

Oboz」。「オボズ」と読む、アメリカ・モンタナ州発のアウトドアシューズブランドを知っているだろうか。私は長年登山に親しんできたが知らなかった。

創業は2007年、特徴的な靴づくりが評判となり2014年から日本でも取り扱いがあったが一時休止。以来「知る人ぞ知る」名シューズとして再販が熱望されていたようだ。それが今年2024年に公式再来日、Obozが得意とする堅牢と軽量の絶妙なバランスを備えた靴たちが、近年ますます注目が集まるライトハイキングやトレイルランの需要とも重なり、じわじわと知名度を上げてきているとか。

いまならまだ「先取り」風を吹かせると思うのでこの機会に覚えておこう。「オボズ」。耳が聞きなれないへんな響きだ。

そんな「Oboz」が、山を歩きなれた大人の女性モニターを探していると友人から話をもらい、だいぶ大人が過ぎて僭越だが手を上げさせてもらった。

もう10年ほど山では同じブランドの靴を履いていて不満はない。登山靴選びで「不満がない」というのは最大級の誉め言葉で、そこに行きつくまで何足の大なり小なりの「不満がある」靴を履いてきたことか。だから「不満がない」ブランドを見つけた以上、ほかの靴を履くのが怖い。それなのに「Oboz」に興味を持ったのは、アウトドア大国のアメリカでトラディショナルトレッキングシューズ部門のシェアが3位と聞いたからだ。

実はいま履き続けているのもアメリカのブランドで、自分の足が日本やヨーロッパのブランドより相性がいいことも知っている。もしかしたら「不満がない」を越えられるかもしれない。そんな期待が持てたからだ。

Obozの本社があるモンタナ州ボーズマン

 

プレスルームを訪ねると、現行のコレクションがズラリ。ファストハイキング、トレッキング、アルプス登山にリラックスサンダルまで、さまざまな山のシーンに合わせたラインナップ。

少数精鋭の小さなブランドとのことだったのでここまで幅広いシーンを網羅していると思わなかった。残念ながらまだ日本で取り扱いがあるウィメンズアイテムは代表的な型番だけとなるが、日本の一般的な登山シーンをカバーできる代表作なので安心してほしい。

プレスルームにはサンプルも含め日本未発売のものも並ぶ

2024年日本でリリースされたウィメンズのラインナップはこちら

 

最初に紹介するのはブランドの今期目玉のニューフェイス「Katabatic(カタバティック)」シリーズ。ローカットとミッドカット、それぞれに防水か非防水かがある。

ローカットは荷物の少ないファストハイキングやトレイルランニング、ミッドカットはハイキングに向いているモデルだ。

〈ウィメンズ〉 ローカット(防水/非防水)2カラー ミッドカット(防水/非防水)1カラー 23,10029,700
〈メンズ〉 ローカット(防水/非防水)各2カラー  ミッドカット(防水/非防水)各1カラー 23,100~29,700円

 

「あら、あまり見ないカラーだな」が第一印象。

女性は色で買い物するといっても過言ではない。どんな機能性よりも、極端にいえば、履き心地より「見た目」を重要視する傾向にある。私はあまり明るい色の靴を好まないのだが、手に取って眺めているうちにこのパステルともニュアンスとも言えない不思議な色がだんだん良く見えてきて欲しくなってきた。あまり誰とも被らなそうなのもいい。

「軽さ」については一目瞭然。私はファストハイキング系の靴を持っていないので比べることができないが、ただただ軽くてソフトなだけではなく、要所要所(色が違うカカトや爪先部分)は張りがある素材で靴型の形状が保たれており、ソールも柔らかいが薄くはない。むしろ自分の持っているローカットのトレッキングシューズとそう変わらないかもしれない。

これなら石などの突起の当たりを気にせずファストに歩を進められそうだと思った。頻繁に山を歩いている人なら日帰りの軽い登山にも履いて行けるだろう。

アッパー部分は容易く曲がるが、ソールや全体には弾力があってランシューズのように軟らか過ぎない

 

防水と非防水があるのも面白い。一昔前なら「非防水」のシューズがアウトドアショップに並ぶことはほとんどなかったと思う。

大半の季節が雨が少なく乾いている北米と違い、雨の多い日本の山では「濡れない」ことに気を使う。とくに私は濡れたものを身に付けるのがひじょうに苦手なので誰がどう言おうと「防水信者」なのであるが、最近のアウトドア界の流れを見ているとそうでもないようだ。「濡れても大丈夫」な人と、遊ぶフィールドやシーン、天気、あるいは思想によって上手く使い分けている人が増えた証なのだろう。ちなみに「非防水」のほうが通気性がよく、若干ではあるが軽い。とのこと。

 

次に紹介するのはObozの代表作の最新モデル「Sawtooth X Mid B-DRY(ソートゥース エックス ミッド防水)」。ウィメンズはカットも防水機能も一択。

日帰り登山からトレッキングまで汎用性が高い、いわゆる「トレッキングブーツ」「軽登山靴」といわれるカテゴリーだ。

【ウィメンズ】ミッドカット防水(1カラー)※画像中央手前 31,900円
【メンズ】ローカット防水(2カラー)、ミッドカット防水(2カラー) 27,500~31,900円

 

登山者なら最も見慣れた雰囲気の登山ブーツではないだろうか。見た目も際立ったデザインやカラーではなく、いい意味で「普通」だ。

この「普通」がウィメンズシューズにおいてはありがたい。これまではとかく「女性用」という理由でピンクなどの差し色が入れられてしまうからだ。あれが嫌いな女性は少なくないと思うがどうだろうか。それに対してこちらは至ってユニセックスなムードでホッとする。個人的にいい時代になったと喜ばしい。

この靴も他の同じカテゴリーの靴が近年そうであるように「軽い」。そして見た目からは分かりにくいが前者の「カタバティック」同様に、要所と行動中に可動するアッパー部分の硬さにメリハリがある。

ソールは「Sawtooth」という名前の通り、ノコギリの刃の如くギザギザで凸の高さが目立つ。砂地から泥道、ガラ場や岩場とオールマイティに任せられる予感がする。さらに凸と凸の間が比較的広く空いているから小石や土が詰まりにくそうだ。


私の腕の力いっぱいで少し曲がる程度。登山靴においては硬いとしなやかの中間か。


なにげに等高線が描かれているのがカワイイ

 

冒頭に「特徴的な靴づくり」と書いたが、実は「Oboz」はただのシューズブランドではない。靴型から生地やソールパターン、靴紐に至るまでオリジナルで開発している。もはやシューメーカーといってもいいくらいだ。

その最大の特徴のひとつに「インソール」がある。一般的に「インソール」は履きやすさやパフォーマンスをアップさせるために靴とは別に購入するものであるがObozでは「内蔵」されている。見た目はいたって「普通」、なのに見えない部分にこだわりがたくさん。これがまた「知る人ぞ知る」ブランドになった所以ではないだろうか。

さて、いよいよサイズ合わせだ。

私の足の特徴は、幅細め、甲の厚さなし、カカト小さめ、少し内反小趾。サイズは22.523.5センチ。

試したのは23.5センチ(US 6.5)24センチ(US 7)。登山靴は23.5センチを履いている。

足入れしてすぐに違いを感じたのはフィット感。いや、正しくはフィットする場所。

私の足は甲が薄く幅もないため、たとえサイズがピッタリでも靴が緩く感じるのだが、「カタバティック」も「ソートゥース」も指の付け根の下(中足骨)を横からホールドされて足が前後に動きにくい。その割に指先に自由がある。これはインソールの効果もあるのか。

ここがフィットして、ほどよいホールド感が気持ちがいい

インソール効果といえばもうひとつ、歩いてみると足の裏に何かいつもと違う感覚があった。私は靴底が外側から減るので、内反気味で足裏の外側に力がかかっていると思われるが、Obozを履くといつもより内側、いい感じの真ん中を重さが前から後ろへ抜けていく。なんだか背も伸びたような。

これまではローカットの靴で歩くと足の特徴のせいでカカトがカパカパと抜けてしまう(抜けないように気をつかう)ことが常だが、試着した「カタバティック」のローカットはサイズが通常より0.5センチ大きくても抜けなかった。これは自分にしか分からない感動かもしれないが、地味に嬉しいポイントだ。カカト部分に指を差し込んでみると優しくて大きなクッションがあってカカトが抜けないように抑えてくれているようだ。

一方、ミッドカットは足首までホールドされていることによって、さらにカカトの動きも足全体のアソビも抑制される。だが窮屈ではなく、アッパー部分が柔らかいのでおろしたての靴特有の「履かされている感」が少なく自然に歩けるようだった。カットもそこまで高くなく、とくにアキレス腱側は自由度が高いから移動中や旅先で履きっぱなしでもストレスが少なそうだ。

「ソートゥース エックス」は、全体的にしっかりした形状にはなるが、他ブランドの同じカテゴリーのなかでは可動域が大きい登山靴といっていいだろう。

初めての登山靴としても普段とかけ離れた履き心地ではないため扱いやすいと思うし、いまの登山靴の硬さが大げさに感じてきた人の2代目にもよさそう。

ちょうど私はこのカテゴリーの靴が寿命を迎えたので、まったく同じものを買うか悩んでいたところ。「不満がない」を越えられるか、これは期待しちゃう。

試着の段階ではどれも共通して「不満はない」。

だけど私は疑い深い。室内での履き心地が山で裏切られることがあることを学習しているからね。

私はこんな機会がないと選ばないかもしれない「カタバティック ローカット・非防水」と、「ソートゥース エックス ミッドカット・防水」の2足をモニターすることにした。サイズはいつもと同じサイズにした。楽しみだ。

 

《後編》はフィールドレポートと、Obozの選び方

 

 

Katabatic Low カタバティック ロー
23,100円

サイズ:23, 23.5, 24, 24.5, 25, 25.5cm
カラー:Nectar
重さ:284g(24.0cm/片足)



Sawtooth X Mid B-DRY ソートゥース エックス ミッド(防水)
31,900円

サイズ:23, 23.5, 24, 24.5, 25cm
カラー:Rockfall
重さ:462g(24.0cm/片足)

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鈴木みき

イラストレーターなど

自身の登山経験から描いた登山指南コミックエッセイを多数出版。デビュー作「悩んだときは山に行け!」(平凡社)が当時の女子たちに刺さり山ガールブームを後押しした。最新作は「知っている山からはじめよう! 大人の日帰り登山」(講談社)。登山ツアーの企画同行、note「鈴木みきmagazine」の運営、イベントやラジオ出演と活動は多岐にわたる。そこに介護にアルバイトに呑み会と、毎日なにげに忙しい五十路の更年期。東京在住。
Instagram: @mt.suzukimiki
X: Mt_suzukimiki

 

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