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"これは本当にいい靴だ"──屋久島のガイドがKatabatic LT Low GTXを選んだ理由

"これは本当にいい靴だ"──屋久島のガイドがKatabatic LT Low GTXを選んだ理由

小原比呂志 屋久島アカデミー代表理事/エコツアーガイド 靴の選び方の極意。 いつまでも履いていたいと感じる、自分にぴったりの型の靴を選ぶ。 イメージ通りに足場をグリップできる、滑らないソールの靴を選ぶ。 この2点だ。 極論すれば、裸足と同じように自然に、自由に歩くことができる靴こそが"いい靴"だと言える。優れた"肉体性"を有した靴、と言い換えてもいい。縁あって友人の友人から勧められたこの『Katabatic LT Low GTX』は、久々にそんな感覚を思い出させてくれる一足だった。商品のモニター記事を書くという不慣れな仕事を引き受けたのは、この感動をより多くの方に伝えたいと思ったからだ。 最新カタバティックコレクションからセレクトした、ゴアテックス採用のローカットモデル:Katabatic LT Low GTX 登山や野外活動をしていると、自分の身体能力について考える機会が増える。体力のなさを実感することもあれば、逆にテクニックの進歩や成長に気づいてうれしくなることもある。他人と比べて落ち込んだり、ちょっとした優越感に浸ったり。そんなことを繰り返しながら、自分の身体を理解し受け入れていくようになる。 ところが、そうやってある程度見極めたはずの"限界"を、不意に越えてしまうことがある。それは、優れた肉体性を備えた道具、つまり自分の身体の一部が突然進化したかのように感じる道具に出会ったときだ。とりわけ靴というのは、その代表格ではないかと思う。 優れた靴を手に入れることは、失っていた身体の一部を取り戻すような感覚に等しい。何度か登山靴を買い替えたことのある人なら、きっと共感していただけるのではないだろうか。 登山靴は決して安い買い物ではないし、何足も買って履き比べてみるなど、なかなかできることではない。だからこそ、一足一足との出会いがとても重要になる。 私自身、これまで軽登山靴から重登山靴、アプローチシューズ、スニーカー、地下足袋、長靴まで、用途に応じてさまざまな靴を選んできたが、「小指が当たって痛い」「親指付け根のところが狭い」「サイズは合っているのに窮屈」「かかとが抜けやすい」「履き心地は良いがソールが滑る」など、何かしら気になる点があったが、これはすべて採用されている「足型(ラスト)」に起因していると思う。つまり「足入れ」の問題だ。 そもそも私は、自分で言うのもなんだが、靴選びにはかなりうるさい人間である。登山道具店で候補の靴をサイズ違いで片っ端から試し履きし、1時間かけて検討した末に気に入るものが見つからず、結局買わずに帰ったことも一度や二度ではない。 Obozのショールームでも、できる限り多くのモデルを履かせてもらった。それぞれ個性があったが、その中で驚くほどスッと足になじんだのが『Katabatic LT Low GTX』だった。まさに、優れた肉体性を備えた、自分にとって"本当に良い"靴に出会えた瞬間だった。この靴のモニターをさせてもらうことに決まり、屋久島に届いて以来、森へ山へとさまざまな所を歩いているが、足入れの良さとイメージ通りに効くフリクション、そのどちらにも大きな満足を感じている。 この靴を手に入れて以来、気づけば毎日こればかり履いている。 さて、この記事を読んでくださっている方の中に、屋久島の山を歩いた経験のある方はいるだろうか? 私が暮らす屋久島は、九州の南に浮かぶ山岳島で、直径は30km弱。さほど大きくはないが、最高峰・宮之浦岳は1936mと、四国・九州の山々と並ぶ高さを誇る。海上に屹立するその山は、古くから遣唐使や遣明船の外洋航海の目印でもあった。 屋久島西部 世界遺産の森 黒潮の影響を受けるこの島は、日本でも有数の多雨地帯だ。海岸沿いですら年降水量は2000〜4000mm、標高1000m以上の山地では1万mmを超えることも珍しくない。ときには、一度の雨で500mm、800mmと降ることさえある。...

"これは本当にいい靴だ"──屋久島のガイドがKatabatic LT Low GTXを選んだ理由

小原比呂志 屋久島アカデミー代表理事/エコツアーガイド 靴の選び方の極意。 いつまでも履いていたいと感じる、自分にぴったりの型の靴を選ぶ。 イメージ通りに足場をグリップできる、滑らないソールの靴を選ぶ。 この2点だ。 極論すれば、裸足と同じように自然に、自由に歩くことができる靴こそが"いい靴"だと言える。優れた"肉体性"を有した靴、と言い換えてもいい。縁あって友人の友人から勧められたこの『Katabatic LT Low GTX』は、久々にそんな感覚を思い出させてくれる一足だった。商品のモニター記事を書くという不慣れな仕事を引き受けたのは、この感動をより多くの方に伝えたいと思ったからだ。 最新カタバティックコレクションからセレクトした、ゴアテックス採用のローカットモデル:Katabatic LT Low GTX 登山や野外活動をしていると、自分の身体能力について考える機会が増える。体力のなさを実感することもあれば、逆にテクニックの進歩や成長に気づいてうれしくなることもある。他人と比べて落ち込んだり、ちょっとした優越感に浸ったり。そんなことを繰り返しながら、自分の身体を理解し受け入れていくようになる。 ところが、そうやってある程度見極めたはずの"限界"を、不意に越えてしまうことがある。それは、優れた肉体性を備えた道具、つまり自分の身体の一部が突然進化したかのように感じる道具に出会ったときだ。とりわけ靴というのは、その代表格ではないかと思う。 優れた靴を手に入れることは、失っていた身体の一部を取り戻すような感覚に等しい。何度か登山靴を買い替えたことのある人なら、きっと共感していただけるのではないだろうか。 登山靴は決して安い買い物ではないし、何足も買って履き比べてみるなど、なかなかできることではない。だからこそ、一足一足との出会いがとても重要になる。 私自身、これまで軽登山靴から重登山靴、アプローチシューズ、スニーカー、地下足袋、長靴まで、用途に応じてさまざまな靴を選んできたが、「小指が当たって痛い」「親指付け根のところが狭い」「サイズは合っているのに窮屈」「かかとが抜けやすい」「履き心地は良いがソールが滑る」など、何かしら気になる点があったが、これはすべて採用されている「足型(ラスト)」に起因していると思う。つまり「足入れ」の問題だ。 そもそも私は、自分で言うのもなんだが、靴選びにはかなりうるさい人間である。登山道具店で候補の靴をサイズ違いで片っ端から試し履きし、1時間かけて検討した末に気に入るものが見つからず、結局買わずに帰ったことも一度や二度ではない。 Obozのショールームでも、できる限り多くのモデルを履かせてもらった。それぞれ個性があったが、その中で驚くほどスッと足になじんだのが『Katabatic LT Low GTX』だった。まさに、優れた肉体性を備えた、自分にとって"本当に良い"靴に出会えた瞬間だった。この靴のモニターをさせてもらうことに決まり、屋久島に届いて以来、森へ山へとさまざまな所を歩いているが、足入れの良さとイメージ通りに効くフリクション、そのどちらにも大きな満足を感じている。 この靴を手に入れて以来、気づけば毎日こればかり履いている。 さて、この記事を読んでくださっている方の中に、屋久島の山を歩いた経験のある方はいるだろうか? 私が暮らす屋久島は、九州の南に浮かぶ山岳島で、直径は30km弱。さほど大きくはないが、最高峰・宮之浦岳は1936mと、四国・九州の山々と並ぶ高さを誇る。海上に屹立するその山は、古くから遣唐使や遣明船の外洋航海の目印でもあった。 屋久島西部 世界遺産の森 黒潮の影響を受けるこの島は、日本でも有数の多雨地帯だ。海岸沿いですら年降水量は2000〜4000mm、標高1000m以上の山地では1万mmを超えることも珍しくない。ときには、一度の雨で500mm、800mmと降ることさえある。...

最新作「Katabatic LT Mid GTX」のスタイリッシュなルックスに秘められた、その実力とは? アウトドアライター 高橋庄太郎氏が徹底レビュー!

最新作「Katabatic LT Mid GTX」のスタイリッシュなルックスに秘められた、その...

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター 大きな期待とともに2023年に発売開始され、多くのユーザーから好評を得た「オボズ」の"Katabatic(カタバティック)"シリーズ。今期はさらにパワーアップし、いくつかの新作が加わっている。今回ここでピックアップするのは、"Katabatic LT Mid GTX"。これまでのKatabaticのDNAを受け継ぐ、防水性のミッドカットモデルだ。 モデル名に入っている"LT"とは"LIGHT"のこと。同シリーズのなかでもKatabatic LT Mid GTXは軽量性に秀でているのが大きな特徴で、重量は372g(27.0cm/片足)だ。 軽量性を生かしたスピードハイキングやファストハイクでの使用を視野に入れながらも十分な保護力やグリップ力を持っており、一般的な登山でも使いやすく仕上がっているのが大きな特徴である。 機能性を突き詰めた各部の特徴 では、はじめに各部ディテールを見ていこう。 先に述べたように、Katabatic LT Mid GTXはミッドカットモデルである。 ひとくちにミッドカットといっても、シューズによってアッパーの高さはさまざまだ。それで言えば、Katabatic LT Mid GTXのアッパーは少し低め。普段ローカットを履いている人でも違和感なく履けるような設計である。しかも、アキレス腱の部分が少しくぼんでいることもあり、ミッドカットといえども足首周りの可動域は広い。 内側をのぞき込むと、足首をぐるりと巻くように厚めのクッション性素材が配置されていることが一目でわかる。 この立体的な構造によって、足首をほどよく包み込み、極上のフィット感をもたらすわけだ。 おもしろいのは、タンのデザインである。逆三角形状に中央上部が低くなっているのだ。 これは足首が前傾したときにタンが邪魔にならないようにという考えからの設計だろうか。このような形状のシューズは珍しく、デザイン上のポイントにもなっていて、スタイリッシュな雰囲気を醸し出すのに一役買っている。 アッパーの表面は速乾性に優れるメッシュ素材で、リサイクルポリエステルが100%使われている。その上には薄いグレーのTPUコーティングを線状に施し、擦れて傷みやすいアッパーを強化するとともに歩行中のアッパーの伸びを抑えている。 そして、このアッパーは内側に防水透湿素材のゴアテックスが使われているとは思えないほど薄くてしなやかだ。 じつは、Katabatic LT Mid...

最新作「Katabatic LT Mid GTX」のスタイリッシュなルックスに秘められた、その...

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター 大きな期待とともに2023年に発売開始され、多くのユーザーから好評を得た「オボズ」の"Katabatic(カタバティック)"シリーズ。今期はさらにパワーアップし、いくつかの新作が加わっている。今回ここでピックアップするのは、"Katabatic LT Mid GTX"。これまでのKatabaticのDNAを受け継ぐ、防水性のミッドカットモデルだ。 モデル名に入っている"LT"とは"LIGHT"のこと。同シリーズのなかでもKatabatic LT Mid GTXは軽量性に秀でているのが大きな特徴で、重量は372g(27.0cm/片足)だ。 軽量性を生かしたスピードハイキングやファストハイクでの使用を視野に入れながらも十分な保護力やグリップ力を持っており、一般的な登山でも使いやすく仕上がっているのが大きな特徴である。 機能性を突き詰めた各部の特徴 では、はじめに各部ディテールを見ていこう。 先に述べたように、Katabatic LT Mid GTXはミッドカットモデルである。 ひとくちにミッドカットといっても、シューズによってアッパーの高さはさまざまだ。それで言えば、Katabatic LT Mid GTXのアッパーは少し低め。普段ローカットを履いている人でも違和感なく履けるような設計である。しかも、アキレス腱の部分が少しくぼんでいることもあり、ミッドカットといえども足首周りの可動域は広い。 内側をのぞき込むと、足首をぐるりと巻くように厚めのクッション性素材が配置されていることが一目でわかる。 この立体的な構造によって、足首をほどよく包み込み、極上のフィット感をもたらすわけだ。 おもしろいのは、タンのデザインである。逆三角形状に中央上部が低くなっているのだ。 これは足首が前傾したときにタンが邪魔にならないようにという考えからの設計だろうか。このような形状のシューズは珍しく、デザイン上のポイントにもなっていて、スタイリッシュな雰囲気を醸し出すのに一役買っている。 アッパーの表面は速乾性に優れるメッシュ素材で、リサイクルポリエステルが100%使われている。その上には薄いグレーのTPUコーティングを線状に施し、擦れて傷みやすいアッパーを強化するとともに歩行中のアッパーの伸びを抑えている。 そして、このアッパーは内側に防水透湿素材のゴアテックスが使われているとは思えないほど薄くてしなやかだ。 じつは、Katabatic LT Mid...

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《後編》 オボズを履いて山へ行ってみた  - report and opinion -

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《後編》 オボズを履いて山へ行ってみた - report a...

鈴木みき イラストレーターなど   《前編》オボズって、なに? ファーストインプレッション   〈Katabatic Low〉US 6.5 / color : Nectar プレスルームから持ち帰った2足、はじめに履いてみたのは「カタバティック ロー」だ。すぐ試したかったのもあるが、初めての非防水にビビッて山に行く前に街履きすることにした。靴が軽いと足取りも軽快、明るい色のせいか何となく気分も明るくなるようだ。 歩き出してまず感じたのが、ツブツブしているアウトソールのパターンがまるで柔らかいスパイクを履いているようで妙に気持ちがいい。それでいて乾いたアスファルトやビルの床でのグリップはよさそうだ。 数日後、雨が降ったので勇気を出して履いて出た。「非防水といってもアウトドアシューズだし…」と、どこか期待していたところがあったがすんなり湿ってきた。ウールの靴下を履いていたのでビショビショというより「濡れている?」くらいの体感だったが、防水の靴ばかり履いているため不快感は否めない。とはいえ街のちょっとした雨であれば、水溜まりにでも入らない限り大きな問題ではないのかもしれない。ただやっぱり私は湿った履物は苦手だ。 後日、舗装路とトレイルがミックスした日帰りハイキングへ行った。早朝に降った雨の影響で、滑りやすい粘土質の道や濡れた木道を歩いたが、瞬発的なグリップはよかったと思う。逆に、滑るまいとヌル~と足を置いたり耐えてしまうと滑力に負ける感触があったのでビビらず歩を進めることだ。それがこの靴の得意とするところなのだから滑ったのは私の歩き方のせいだろう。 前半湿った土の道が多かったせいか、歩いている途中で靴下が湿ってきた。汗の可能性も考えられるが、いつもより遅いペースだったので外側からの影響ではないかと思っている。しかし天気がよかったので、後半乾いた舗装路を歩いているうちに気にならなくなった。汚れが目立つカラーが心配だったが、意外と汚れが残らなかった。素材の特性だろうか。 履き始めてから(毎日のように履いて)約1ヵ月の現在。初日から数日で新しい靴の違和感もなくなったが、いまはさらに馴染んできて(少し緩めにした)紐を結んだまま着脱できるようになった。紐は一度も勝手には解けていない。カカト部分が形状記憶のようにへたらず硬さを保っているので、見た目はもちろん機能も保持している。 ほかの靴を履いた時にObozのインソールの柔らかさを実感。そしてまだ汚れが目立たずきれいなままだ。最初は躊躇したカラーだったが、取り入れてみると案外洋服に合わせやすくオシャレに見える。気がする(笑)   〈Sawtooth X Mid B-DRY〉US 6.5 / color : Rockfall...

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《後編》 オボズを履いて山へ行ってみた - report a...

鈴木みき イラストレーターなど   《前編》オボズって、なに? ファーストインプレッション   〈Katabatic Low〉US 6.5 / color : Nectar プレスルームから持ち帰った2足、はじめに履いてみたのは「カタバティック ロー」だ。すぐ試したかったのもあるが、初めての非防水にビビッて山に行く前に街履きすることにした。靴が軽いと足取りも軽快、明るい色のせいか何となく気分も明るくなるようだ。 歩き出してまず感じたのが、ツブツブしているアウトソールのパターンがまるで柔らかいスパイクを履いているようで妙に気持ちがいい。それでいて乾いたアスファルトやビルの床でのグリップはよさそうだ。 数日後、雨が降ったので勇気を出して履いて出た。「非防水といってもアウトドアシューズだし…」と、どこか期待していたところがあったがすんなり湿ってきた。ウールの靴下を履いていたのでビショビショというより「濡れている?」くらいの体感だったが、防水の靴ばかり履いているため不快感は否めない。とはいえ街のちょっとした雨であれば、水溜まりにでも入らない限り大きな問題ではないのかもしれない。ただやっぱり私は湿った履物は苦手だ。 後日、舗装路とトレイルがミックスした日帰りハイキングへ行った。早朝に降った雨の影響で、滑りやすい粘土質の道や濡れた木道を歩いたが、瞬発的なグリップはよかったと思う。逆に、滑るまいとヌル~と足を置いたり耐えてしまうと滑力に負ける感触があったのでビビらず歩を進めることだ。それがこの靴の得意とするところなのだから滑ったのは私の歩き方のせいだろう。 前半湿った土の道が多かったせいか、歩いている途中で靴下が湿ってきた。汗の可能性も考えられるが、いつもより遅いペースだったので外側からの影響ではないかと思っている。しかし天気がよかったので、後半乾いた舗装路を歩いているうちに気にならなくなった。汚れが目立つカラーが心配だったが、意外と汚れが残らなかった。素材の特性だろうか。 履き始めてから(毎日のように履いて)約1ヵ月の現在。初日から数日で新しい靴の違和感もなくなったが、いまはさらに馴染んできて(少し緩めにした)紐を結んだまま着脱できるようになった。紐は一度も勝手には解けていない。カカト部分が形状記憶のようにへたらず硬さを保っているので、見た目はもちろん機能も保持している。 ほかの靴を履いた時にObozのインソールの柔らかさを実感。そしてまだ汚れが目立たずきれいなままだ。最初は躊躇したカラーだったが、取り入れてみると案外洋服に合わせやすくオシャレに見える。気がする(笑)   〈Sawtooth X Mid B-DRY〉US 6.5 / color : Rockfall...

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《前編》オボズって、なに?  -first impression-

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《前編》オボズって、なに? -first impression-

鈴木みき イラストレーターなど   「Oboz」。「オボズ」と読む、アメリカ・モンタナ州発のアウトドアシューズブランドを知っているだろうか。私は長年登山に親しんできたが知らなかった。 創業は2007年、特徴的な靴づくりが評判となり2014年から日本でも取り扱いがあったが一時休止。以来「知る人ぞ知る」名シューズとして再販が熱望されていたようだ。それが今年2024年に公式再来日、Obozが得意とする堅牢と軽量の絶妙なバランスを備えた靴たちが、近年ますます注目が集まるライトハイキングやトレイルランの需要とも重なり、じわじわと知名度を上げてきているとか。 いまならまだ「先取り」風を吹かせると思うのでこの機会に覚えておこう。「オボズ」。耳が聞きなれないへんな響きだ。 そんな「Oboz」が、山を歩きなれた大人の女性モニターを探していると友人から話をもらい、だいぶ大人が過ぎて僭越だが手を上げさせてもらった。 もう10年ほど山では同じブランドの靴を履いていて不満はない。登山靴選びで「不満がない」というのは最大級の誉め言葉で、そこに行きつくまで何足の大なり小なりの「不満がある」靴を履いてきたことか。だから「不満がない」ブランドを見つけた以上、ほかの靴を履くのが怖い。それなのに「Oboz」に興味を持ったのは、アウトドア大国のアメリカでトラディショナルトレッキングシューズ部門のシェアが3位と聞いたからだ。 実はいま履き続けているのもアメリカのブランドで、自分の足が日本やヨーロッパのブランドより相性がいいことも知っている。もしかしたら「不満がない」を越えられるかもしれない。そんな期待が持てたからだ。 Obozの本社があるモンタナ州ボーズマン   プレスルームを訪ねると、現行のコレクションがズラリ。ファストハイキング、トレッキング、アルプス登山にリラックスサンダルまで、さまざまな山のシーンに合わせたラインナップ。 少数精鋭の小さなブランドとのことだったのでここまで幅広いシーンを網羅していると思わなかった。残念ながらまだ日本で取り扱いがあるウィメンズアイテムは代表的な型番だけとなるが、日本の一般的な登山シーンをカバーできる代表作なので安心してほしい。 プレスルームにはサンプルも含め日本未発売のものも並ぶ 2024年日本でリリースされたウィメンズのラインナップはこちら   最初に紹介するのはブランドの今期目玉のニューフェイス「Katabatic(カタバティック)」シリーズ。ローカットとミッドカット、それぞれに防水か非防水かがある。 ローカットは荷物の少ないファストハイキングやトレイルランニング、ミッドカットはハイキングに向いているモデルだ。 〈ウィメンズ〉 ローカット(防水/非防水)各2カラー ミッドカット(防水/非防水)各1カラー 23,100~29,700円〈メンズ〉 ローカット(防水/非防水)各2カラー  ミッドカット(防水/非防水)各1カラー 23,100~29,700円   「あら、あまり見ないカラーだな」が第一印象。 女性は色で買い物するといっても過言ではない。どんな機能性よりも、極端にいえば、履き心地より「見た目」を重要視する傾向にある。私はあまり明るい色の靴を好まないのだが、手に取って眺めているうちにこのパステルともニュアンスとも言えない不思議な色がだんだん良く見えてきて欲しくなってきた。あまり誰とも被らなそうなのもいい。 「軽さ」については一目瞭然。私はファストハイキング系の靴を持っていないので比べることができないが、ただただ軽くてソフトなだけではなく、要所要所(色が違うカカトや爪先部分)は張りがある素材で靴型の形状が保たれており、ソールも柔らかいが薄くはない。むしろ自分の持っているローカットのトレッキングシューズとそう変わらないかもしれない。 これなら石などの突起の当たりを気にせずファストに歩を進められそうだと思った。頻繁に山を歩いている人なら日帰りの軽い登山にも履いて行けるだろう。 アッパー部分は容易く曲がるが、ソールや全体には弾力があってランシューズのように軟らか過ぎない   防水と非防水があるのも面白い。一昔前なら「非防水」のシューズがアウトドアショップに並ぶことはほとんどなかったと思う。 大半の季節が雨が少なく乾いている北米と違い、雨の多い日本の山では「濡れない」ことに気を使う。とくに私は濡れたものを身に付けるのがひじょうに苦手なので誰がどう言おうと「防水信者」なのであるが、最近のアウトドア界の流れを見ているとそうでもないようだ。「濡れても大丈夫」な人と、遊ぶフィールドやシーン、天気、あるいは思想によって上手く使い分けている人が増えた証なのだろう。ちなみに「非防水」のほうが通気性がよく、若干ではあるが軽い。とのこと。  ...

鈴木みきの忖度なしのモニター報告《前編》オボズって、なに? -first impression-

鈴木みき イラストレーターなど   「Oboz」。「オボズ」と読む、アメリカ・モンタナ州発のアウトドアシューズブランドを知っているだろうか。私は長年登山に親しんできたが知らなかった。 創業は2007年、特徴的な靴づくりが評判となり2014年から日本でも取り扱いがあったが一時休止。以来「知る人ぞ知る」名シューズとして再販が熱望されていたようだ。それが今年2024年に公式再来日、Obozが得意とする堅牢と軽量の絶妙なバランスを備えた靴たちが、近年ますます注目が集まるライトハイキングやトレイルランの需要とも重なり、じわじわと知名度を上げてきているとか。 いまならまだ「先取り」風を吹かせると思うのでこの機会に覚えておこう。「オボズ」。耳が聞きなれないへんな響きだ。 そんな「Oboz」が、山を歩きなれた大人の女性モニターを探していると友人から話をもらい、だいぶ大人が過ぎて僭越だが手を上げさせてもらった。 もう10年ほど山では同じブランドの靴を履いていて不満はない。登山靴選びで「不満がない」というのは最大級の誉め言葉で、そこに行きつくまで何足の大なり小なりの「不満がある」靴を履いてきたことか。だから「不満がない」ブランドを見つけた以上、ほかの靴を履くのが怖い。それなのに「Oboz」に興味を持ったのは、アウトドア大国のアメリカでトラディショナルトレッキングシューズ部門のシェアが3位と聞いたからだ。 実はいま履き続けているのもアメリカのブランドで、自分の足が日本やヨーロッパのブランドより相性がいいことも知っている。もしかしたら「不満がない」を越えられるかもしれない。そんな期待が持てたからだ。 Obozの本社があるモンタナ州ボーズマン   プレスルームを訪ねると、現行のコレクションがズラリ。ファストハイキング、トレッキング、アルプス登山にリラックスサンダルまで、さまざまな山のシーンに合わせたラインナップ。 少数精鋭の小さなブランドとのことだったのでここまで幅広いシーンを網羅していると思わなかった。残念ながらまだ日本で取り扱いがあるウィメンズアイテムは代表的な型番だけとなるが、日本の一般的な登山シーンをカバーできる代表作なので安心してほしい。 プレスルームにはサンプルも含め日本未発売のものも並ぶ 2024年日本でリリースされたウィメンズのラインナップはこちら   最初に紹介するのはブランドの今期目玉のニューフェイス「Katabatic(カタバティック)」シリーズ。ローカットとミッドカット、それぞれに防水か非防水かがある。 ローカットは荷物の少ないファストハイキングやトレイルランニング、ミッドカットはハイキングに向いているモデルだ。 〈ウィメンズ〉 ローカット(防水/非防水)各2カラー ミッドカット(防水/非防水)各1カラー 23,100~29,700円〈メンズ〉 ローカット(防水/非防水)各2カラー  ミッドカット(防水/非防水)各1カラー 23,100~29,700円   「あら、あまり見ないカラーだな」が第一印象。 女性は色で買い物するといっても過言ではない。どんな機能性よりも、極端にいえば、履き心地より「見た目」を重要視する傾向にある。私はあまり明るい色の靴を好まないのだが、手に取って眺めているうちにこのパステルともニュアンスとも言えない不思議な色がだんだん良く見えてきて欲しくなってきた。あまり誰とも被らなそうなのもいい。 「軽さ」については一目瞭然。私はファストハイキング系の靴を持っていないので比べることができないが、ただただ軽くてソフトなだけではなく、要所要所(色が違うカカトや爪先部分)は張りがある素材で靴型の形状が保たれており、ソールも柔らかいが薄くはない。むしろ自分の持っているローカットのトレッキングシューズとそう変わらないかもしれない。 これなら石などの突起の当たりを気にせずファストに歩を進められそうだと思った。頻繁に山を歩いている人なら日帰りの軽い登山にも履いて行けるだろう。 アッパー部分は容易く曲がるが、ソールや全体には弾力があってランシューズのように軟らか過ぎない   防水と非防水があるのも面白い。一昔前なら「非防水」のシューズがアウトドアショップに並ぶことはほとんどなかったと思う。 大半の季節が雨が少なく乾いている北米と違い、雨の多い日本の山では「濡れない」ことに気を使う。とくに私は濡れたものを身に付けるのがひじょうに苦手なので誰がどう言おうと「防水信者」なのであるが、最近のアウトドア界の流れを見ているとそうでもないようだ。「濡れても大丈夫」な人と、遊ぶフィールドやシーン、天気、あるいは思想によって上手く使い分けている人が増えた証なのだろう。ちなみに「非防水」のほうが通気性がよく、若干ではあるが軽い。とのこと。  ...

Obōz(オボズ)日本再上陸! アウトドアライター高橋庄太郎氏が、最新モデルを履いてファストハイクへ

Obōz(オボズ)日本再上陸! アウトドアライター高橋庄太郎氏が、最新モデルを履いてファストハイクへ

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター 日本でも熱烈なファンを持つアメリカのシューズブランド「オボズ」。じつは日本での販売はいったん中止されており、最近はあまり聞かない名前になっていた。そのオボズが、このたびめでたく再上陸! しかし現在のオボズは、どれほど進化を遂げているのだろうか? そこで今期の目玉アイテムだという最新作“カタバティック”を実際に山中で試してみた。 現在のオボズのコレクションのなかで、カタバティックは“ファストハイク”に位置づけられるシューズだ。ミッドカットとローカットがあり、さらにローカットはシューズ内部が濡れない防水性をもつタイプと、通気性を重視した非防水性のタイプに作り分けられている。 今回テストしたのは、ローカットで非防水性の“カタバティック ロー”。重量は360g(27.0㎝/片足)と、とても軽量だ。ちなみにカラーは2色あり、これはさわやかなブルー系(もうひとつはブラウン系)である。 僕は荷物が軽い日帰り登山を中心に、軽快に行動できるローカットシューズをよく利用しているが、その多くはこのような非防水タイプだ。たとえば、歩き終えてクルマに戻れば他のシューズに履き替えられるような状況のときは、歩行中に足が濡れても大きな問題はなく、通気性を重視することで内部が蒸し暑くならないシューズのほうが気持ちよいからである。そもそも防水性が大事なシチュエーションであれば、僕はローカットではなく、ミッドカットかハイカットを選んでいる。 ともあれ、カタバティックのローカットは、防水タイプと非防水タイプで見た目はほとんど変わらない。だが、よく見ると非防水タイプはアッパーのメッシュ生地の目が粗く、いかにも通気性に長けているように見える。 一方で、触ってみるとかなり張りがある素材で、いかにも強靭そうだ。 こちらはアウトソール。 横方向に長いミゾが入り、前後の屈曲性を重視していることがわかる。いかにもファストハイク向けに設計されたシューズだ。 内部には「Ortholite(オーソライト)」社の名前が入ったフットベッド(インソール)。 “餅は餅屋”ということで、カタバティックのフットベッドは信頼がおける専門メーカーと共同開発しているのだ。 では、実際に足を入れてみよう。 以前、登山靴をオーダーしたとき、僕の足を靴職人さんに診断してもらったところ、僕の足は少し偏平足気味なものの、とくに形状に特徴はなく、いわば普通の足の形らしい。そんな僕が足入れすると、カタバティックは少しタイトめに感じるフィット感。しかし、違和感を覚えるほどではなく、履いているうちにもっとなじんでいきそうだった。 まずは平坦な場所で足慣らし。 前方へ蹴り出したときの歩行感は良好だ。足首周りの可動域が広く、足の動きを妨げることはない。 カタバティックはファストハイク向けのシューズということで、その後はスピーディーに行動できる稜線のトレイルへ。自然の起伏に合わせながら、走るようなスピードで進んでいく。 アウトソールのグリップ力は高い。足に入れた力がダイレクトに地面へ伝わっていくかのような感覚である。 それに加えておもしろく感じたのは、つま先先端まで使って蹴り込んでも、しっかりと力が入ることだ。 アウトソールをよく見ると、ラグがシューズ先端までつけられているのがわかる。しかもカタバティックは一般的なファストハイク、スピードハイク、トレイルランニングタイプなどといったシューズよりもアウトソールが硬めであり、その結果、地面の細かな凸凹を確実に捉えているようであった。 また、強く蹴り込んで歩いていると、かかとが浮いてしまうシューズ、とくにローカットが多いなか、カタバティックのかかとのフィット感は特筆すべきレベルであった。 その秘密は、ヒールカップにある。この部分が他のシューズではあまり見られないほど立体的なのだ。より具体的に言えば、ヒールカップの上の足首周りをぐるりと巻くように弾力ある素材が配置され、その立体的な形状の力でかかとの浮き上がりを抑えているのである。これがじつに効果的。重ねて言うが、これは本当に特筆すべきポイントだ。 段差がある場所は、足腰や膝に負担がかかりやすいものである。 こんな場所でもカタバティックは優秀だった。 ミッドソールは弾み過ぎない程よい硬さ。その内部には安定性を高めるプレートも収められ、着地した際の衝撃を吸収し、体にダメージを残さない。 僕は最近、緩やかなトレイルを中心に弾力性が高い分厚いミッドソールのシューズを多用している。だが、起伏が激しかったり、階段状の段差が続いたりするような場所では、カタバティックのような程々の弾力性のシューズのほうが安定しているとも感じた。 感心したのは、アウトソールの横滑りが少ないことだ。 ファストハイクやトレイルランニングシューズは、前方への蹴り出しやすさを重視するあまり、前進する際には力をかけやすいが、その分だけ横滑りしやすいアウトソールを採用しているものが珍しくない。 しかし、カタバティックのラグパターンは縦方向をメインにつけられており、前進する際の屈曲性をキープしながら横向きのグリップ力も高め、スリップを抑えることに成功している。だから、たんにすばやく前方へ進めるファストハイクタイプのシューズよりも汎用性が高く、一般登山にもタイプするシューズになっていると僕は感じた。 ところで、湿った地面の上を歩いていると、アウトソールにはだんだん泥がこびりついていく。 だが、カタバティックのアウトソールへのこびりつきはわずかだった。 正しくは、泥が付着してもすぐに落ちてしまうのである。ラグが浅く、かつ硬いために、歩いているうちに自然に取れてしまうのだ。こんなアウトソールの特徴もグリップ力のキープに一役買っている。 もうひとつ感心したのは、シューレースを使ったフィット感の調整のしやすさだ。 カタバティックのシューレースの断面は、丸紐と平紐の中間的な形状。しかも摩擦感が強い素材だ。 そのために、一度シューレースを締めると、それだけで非常に緩みにくくなる。しかも結んだシューレースは本当にほどけにくい。気付きにくい地味なディテールではあるが、これも賞賛すべき点のひとつだ。 僕は岩場でもカタバティックを試してみた。ファストハイクタイプのシューズならば、あまり得意とするシチュエーションではないかもしれない。 しかし乾いた岩の上ではほとんど滑らず、ゴツゴツした場所でも足裏からの突き上げも感じない。なかなかやるではないか! シューズの特性上、アッパーは柔らかく、補強された箇所も少ないので、カタバティックの足を保護する力は限定的ではある。つまり、本来は岩場向けではないが、それでも予想以上のパフォーマンスだとはいえそうだ。 テストの最後は、水への対応である。とはいえ、先に述べたように今回選んだカタバティックは“非防水性”のタイプ。当然ながら、水たまりにシューズをつけると、アッパーが水を吸い込み、次第に内部も濡れていった。 だが、カタバティックのアッパーは速乾力に秀でている。この日は好天とあって、アッパーはあっという間に乾燥。一時は水濡れで色濃くなっていたカラーも、すぐに元に戻ってしまった。さすがに内部はなかなか乾き切らなかったが、1時間もすると一度濡らしたことすら忘れるほど当初のコンディションを取り戻していた。 こんなカタバティックを履いて山を歩き、走った1日はあっという間に過ぎていった。 僕の率直な感想は、カタバティックはファストハイクを主眼にしたシューズとはいえ、一般登山にも適したシューズではないかということ。横滑りしにくく、岩場でも安定感があり、通気性が高くて夏場は涼しい。足を保護する能力をもっと期待するならば、ローカットではなく、ミッドカットを選ぶという手もあり、ファストハイク以外にも使わないのはもったいない。もちろんシューズというものはウェア同様、使う人の体に合わなければ違和感ばかりで心地よく使用できないが、一度は試してみるだけの意味はあるはずだ。 満足が行くテストを終えた僕は、クルマに戻ってカタバティックを脱いだ。 そして次なる相棒のサンダル“ワカタ オフロード”にチェンジ。緩やかな履き心地に、足がリラックスしているのが実感できる。 このサンダルはヒールストラップでしっかりと固定できるため、クルマの運転にも支障ないのがポイントだ。 なによりリカバリー機能を持っているので、山帰りの疲れた体でドライブして帰るときにはとても有用。カタバティックと併せて使うのもお勧めなのであった。  再び日本へ戻ってきたオボズ。その新作は期待を裏切らない仕上がりだった。現在はまだ展開しているモデルは少ないとはいえ、オボズの今後からは目が離せない。   初出:Akimama 2024年4月24日 https://www.a-kimama.com/dougu/2024/04/125743/   Katabatic...

Obōz(オボズ)日本再上陸! アウトドアライター高橋庄太郎氏が、最新モデルを履いてファストハイクへ

高橋庄太郎 山岳/アウトドアライター 日本でも熱烈なファンを持つアメリカのシューズブランド「オボズ」。じつは日本での販売はいったん中止されており、最近はあまり聞かない名前になっていた。そのオボズが、このたびめでたく再上陸! しかし現在のオボズは、どれほど進化を遂げているのだろうか? そこで今期の目玉アイテムだという最新作“カタバティック”を実際に山中で試してみた。 現在のオボズのコレクションのなかで、カタバティックは“ファストハイク”に位置づけられるシューズだ。ミッドカットとローカットがあり、さらにローカットはシューズ内部が濡れない防水性をもつタイプと、通気性を重視した非防水性のタイプに作り分けられている。 今回テストしたのは、ローカットで非防水性の“カタバティック ロー”。重量は360g(27.0㎝/片足)と、とても軽量だ。ちなみにカラーは2色あり、これはさわやかなブルー系(もうひとつはブラウン系)である。 僕は荷物が軽い日帰り登山を中心に、軽快に行動できるローカットシューズをよく利用しているが、その多くはこのような非防水タイプだ。たとえば、歩き終えてクルマに戻れば他のシューズに履き替えられるような状況のときは、歩行中に足が濡れても大きな問題はなく、通気性を重視することで内部が蒸し暑くならないシューズのほうが気持ちよいからである。そもそも防水性が大事なシチュエーションであれば、僕はローカットではなく、ミッドカットかハイカットを選んでいる。 ともあれ、カタバティックのローカットは、防水タイプと非防水タイプで見た目はほとんど変わらない。だが、よく見ると非防水タイプはアッパーのメッシュ生地の目が粗く、いかにも通気性に長けているように見える。 一方で、触ってみるとかなり張りがある素材で、いかにも強靭そうだ。 こちらはアウトソール。 横方向に長いミゾが入り、前後の屈曲性を重視していることがわかる。いかにもファストハイク向けに設計されたシューズだ。 内部には「Ortholite(オーソライト)」社の名前が入ったフットベッド(インソール)。 “餅は餅屋”ということで、カタバティックのフットベッドは信頼がおける専門メーカーと共同開発しているのだ。 では、実際に足を入れてみよう。 以前、登山靴をオーダーしたとき、僕の足を靴職人さんに診断してもらったところ、僕の足は少し偏平足気味なものの、とくに形状に特徴はなく、いわば普通の足の形らしい。そんな僕が足入れすると、カタバティックは少しタイトめに感じるフィット感。しかし、違和感を覚えるほどではなく、履いているうちにもっとなじんでいきそうだった。 まずは平坦な場所で足慣らし。 前方へ蹴り出したときの歩行感は良好だ。足首周りの可動域が広く、足の動きを妨げることはない。 カタバティックはファストハイク向けのシューズということで、その後はスピーディーに行動できる稜線のトレイルへ。自然の起伏に合わせながら、走るようなスピードで進んでいく。 アウトソールのグリップ力は高い。足に入れた力がダイレクトに地面へ伝わっていくかのような感覚である。 それに加えておもしろく感じたのは、つま先先端まで使って蹴り込んでも、しっかりと力が入ることだ。 アウトソールをよく見ると、ラグがシューズ先端までつけられているのがわかる。しかもカタバティックは一般的なファストハイク、スピードハイク、トレイルランニングタイプなどといったシューズよりもアウトソールが硬めであり、その結果、地面の細かな凸凹を確実に捉えているようであった。 また、強く蹴り込んで歩いていると、かかとが浮いてしまうシューズ、とくにローカットが多いなか、カタバティックのかかとのフィット感は特筆すべきレベルであった。 その秘密は、ヒールカップにある。この部分が他のシューズではあまり見られないほど立体的なのだ。より具体的に言えば、ヒールカップの上の足首周りをぐるりと巻くように弾力ある素材が配置され、その立体的な形状の力でかかとの浮き上がりを抑えているのである。これがじつに効果的。重ねて言うが、これは本当に特筆すべきポイントだ。 段差がある場所は、足腰や膝に負担がかかりやすいものである。 こんな場所でもカタバティックは優秀だった。 ミッドソールは弾み過ぎない程よい硬さ。その内部には安定性を高めるプレートも収められ、着地した際の衝撃を吸収し、体にダメージを残さない。 僕は最近、緩やかなトレイルを中心に弾力性が高い分厚いミッドソールのシューズを多用している。だが、起伏が激しかったり、階段状の段差が続いたりするような場所では、カタバティックのような程々の弾力性のシューズのほうが安定しているとも感じた。 感心したのは、アウトソールの横滑りが少ないことだ。 ファストハイクやトレイルランニングシューズは、前方への蹴り出しやすさを重視するあまり、前進する際には力をかけやすいが、その分だけ横滑りしやすいアウトソールを採用しているものが珍しくない。 しかし、カタバティックのラグパターンは縦方向をメインにつけられており、前進する際の屈曲性をキープしながら横向きのグリップ力も高め、スリップを抑えることに成功している。だから、たんにすばやく前方へ進めるファストハイクタイプのシューズよりも汎用性が高く、一般登山にもタイプするシューズになっていると僕は感じた。 ところで、湿った地面の上を歩いていると、アウトソールにはだんだん泥がこびりついていく。 だが、カタバティックのアウトソールへのこびりつきはわずかだった。 正しくは、泥が付着してもすぐに落ちてしまうのである。ラグが浅く、かつ硬いために、歩いているうちに自然に取れてしまうのだ。こんなアウトソールの特徴もグリップ力のキープに一役買っている。 もうひとつ感心したのは、シューレースを使ったフィット感の調整のしやすさだ。 カタバティックのシューレースの断面は、丸紐と平紐の中間的な形状。しかも摩擦感が強い素材だ。 そのために、一度シューレースを締めると、それだけで非常に緩みにくくなる。しかも結んだシューレースは本当にほどけにくい。気付きにくい地味なディテールではあるが、これも賞賛すべき点のひとつだ。 僕は岩場でもカタバティックを試してみた。ファストハイクタイプのシューズならば、あまり得意とするシチュエーションではないかもしれない。 しかし乾いた岩の上ではほとんど滑らず、ゴツゴツした場所でも足裏からの突き上げも感じない。なかなかやるではないか! シューズの特性上、アッパーは柔らかく、補強された箇所も少ないので、カタバティックの足を保護する力は限定的ではある。つまり、本来は岩場向けではないが、それでも予想以上のパフォーマンスだとはいえそうだ。 テストの最後は、水への対応である。とはいえ、先に述べたように今回選んだカタバティックは“非防水性”のタイプ。当然ながら、水たまりにシューズをつけると、アッパーが水を吸い込み、次第に内部も濡れていった。 だが、カタバティックのアッパーは速乾力に秀でている。この日は好天とあって、アッパーはあっという間に乾燥。一時は水濡れで色濃くなっていたカラーも、すぐに元に戻ってしまった。さすがに内部はなかなか乾き切らなかったが、1時間もすると一度濡らしたことすら忘れるほど当初のコンディションを取り戻していた。 こんなカタバティックを履いて山を歩き、走った1日はあっという間に過ぎていった。 僕の率直な感想は、カタバティックはファストハイクを主眼にしたシューズとはいえ、一般登山にも適したシューズではないかということ。横滑りしにくく、岩場でも安定感があり、通気性が高くて夏場は涼しい。足を保護する能力をもっと期待するならば、ローカットではなく、ミッドカットを選ぶという手もあり、ファストハイク以外にも使わないのはもったいない。もちろんシューズというものはウェア同様、使う人の体に合わなければ違和感ばかりで心地よく使用できないが、一度は試してみるだけの意味はあるはずだ。 満足が行くテストを終えた僕は、クルマに戻ってカタバティックを脱いだ。 そして次なる相棒のサンダル“ワカタ オフロード”にチェンジ。緩やかな履き心地に、足がリラックスしているのが実感できる。 このサンダルはヒールストラップでしっかりと固定できるため、クルマの運転にも支障ないのがポイントだ。 なによりリカバリー機能を持っているので、山帰りの疲れた体でドライブして帰るときにはとても有用。カタバティックと併せて使うのもお勧めなのであった。  再び日本へ戻ってきたオボズ。その新作は期待を裏切らない仕上がりだった。現在はまだ展開しているモデルは少ないとはいえ、オボズの今後からは目が離せない。   初出:Akimama 2024年4月24日 https://www.a-kimama.com/dougu/2024/04/125743/   Katabatic...