"これは本当にいい靴だ"──屋久島のガイドがKatabatic LT Low GTXを選んだ理由

小原比呂志

屋久島アカデミー代表理事/エコツアーガイド

靴の選び方の極意。
いつまでも履いていたいと感じる、自分にぴったりの型の靴を選ぶ。
イメージ通りに足場をグリップできる、滑らないソールの靴を選ぶ。
この2点だ。

極論すれば、裸足と同じように自然に、自由に歩くことができる靴こそが"いい靴"だと言える。優れた"肉体性"を有した靴、と言い換えてもいい。縁あって友人の友人から勧められたこの『Katabatic LT Low GTX』は、久々にそんな感覚を思い出させてくれる一足だった。商品のモニター記事を書くという不慣れな仕事を引き受けたのは、この感動をより多くの方に伝えたいと思ったからだ。

最新カタバティックコレクションからセレクトした、ゴアテックス採用のローカットモデル:Katabatic LT Low GTX

登山や野外活動をしていると、自分の身体能力について考える機会が増える。体力のなさを実感することもあれば、逆にテクニックの進歩や成長に気づいてうれしくなることもある。他人と比べて落ち込んだり、ちょっとした優越感に浸ったり。そんなことを繰り返しながら、自分の身体を理解し受け入れていくようになる。
ところが、そうやってある程度見極めたはずの"限界"を、不意に越えてしまうことがある。それは、優れた肉体性を備えた道具、つまり自分の身体の一部が突然進化したかのように感じる道具に出会ったときだ。とりわけ靴というのは、その代表格ではないかと思う。
優れた靴を手に入れることは、失っていた身体の一部を取り戻すような感覚に等しい。何度か登山靴を買い替えたことのある人なら、きっと共感していただけるのではないだろうか。

登山靴は決して安い買い物ではないし、何足も買って履き比べてみるなど、なかなかできることではない。だからこそ、一足一足との出会いがとても重要になる。
私自身、これまで軽登山靴から重登山靴、アプローチシューズ、スニーカー、地下足袋、長靴まで、用途に応じてさまざまな靴を選んできたが、「小指が当たって痛い」「親指付け根のところが狭い」「サイズは合っているのに窮屈」「かかとが抜けやすい」「履き心地は良いがソールが滑る」など、何かしら気になる点があったが、これはすべて採用されている「足型(ラスト)」に起因していると思う。つまり「足入れ」の問題だ。
そもそも私は、自分で言うのもなんだが、靴選びにはかなりうるさい人間である。登山道具店で候補の靴をサイズ違いで片っ端から試し履きし、1時間かけて検討した末に気に入るものが見つからず、結局買わずに帰ったことも一度や二度ではない。
Obozのショールームでも、できる限り多くのモデルを履かせてもらった。それぞれ個性があったが、その中で驚くほどスッと足になじんだのが『Katabatic LT Low GTX』だった。まさに、優れた肉体性を備えた、自分にとって"本当に良い"靴に出会えた瞬間だった。この靴のモニターをさせてもらうことに決まり、屋久島に届いて以来、森へ山へとさまざまな所を歩いているが、足入れの良さとイメージ通りに効くフリクション、そのどちらにも大きな満足を感じている。

この靴を手に入れて以来、気づけば毎日こればかり履いている。


さて、この記事を読んでくださっている方の中に、屋久島の山を歩いた経験のある方はいるだろうか?
私が暮らす屋久島は、九州の南に浮かぶ山岳島で、直径は30km弱。さほど大きくはないが、最高峰・宮之浦岳は1936mと、四国・九州の山々と並ぶ高さを誇る。海上に屹立するその山は、古くから遣唐使や遣明船の外洋航海の目印でもあった。

屋久島西部 世界遺産の森

黒潮の影響を受けるこの島は、日本でも有数の多雨地帯だ。海岸沿いですら年降水量は2000〜4000mm、標高1000m以上の山地では1万mmを超えることも珍しくない。ときには、一度の雨で500mm、800mmと降ることさえある。
山岳地帯は、すそ野を除き目の粗い花崗岩が基盤となっており、乾いた状態ならフリクションはとてもいい。しかし、ほとんどいつも霧雲に包まれているため、岩や木の根には藻類や地衣類が生えていて滑りやすく、転倒のリスクは高い。したがって滑らずしっかりグリップするソールが必須になる。
はたしてこの屋久島の登山で『Katabatic LT GTX』の働きぶりはどうだろうか?

結論から言うと、『Katabatic LT GTX』はフリクション性能において十分に合格点を与えられる。キャニオニングシューズのようなヌルついた岩に特化したソールのグリップ力には及ばないが、一般的な山行においては、十分に信頼できる性能を持っていると言える。
また、屋久島ではぬかるみは少ないが、水たまりは多い。5cm程度の水深につま先がざぶっと浸かるような場面が日常的にあるため、普段使いでも山歩きでも、防水性は重要な要素だ。ゴアテックス採用のブーツでも浸水してしまう経験が何度かあったが、この靴に採用されているGORE-TEXインビジブルフィットは非常に優秀だった。古道探索や雨天の森歩きなどで何度か水に足を入れてみたが、一度も水が染みてくることはなかった。

屋久島尾之間で古道探査 。誰も知らない森の道。わざと水たまりを歩いてみた。

突然の雨に降られたある日の山歩きでも、足元は快適なままだった。

グリップの良さ、足入れの良さ、優れた防水性、そしていつまでも履いていられる心地よさ。これらを総合すれば、『Katabatic LT Low GTX』は非常にバランスの取れたシューズであり、屋久島のような多様なフィールドを歩く上でも自信を持っておすすめできる製品だと言える。


2025年6月、しばらくぶりに企画した台湾の森林エコツアーでも、カタバティックを履いてみた。日本ではあまり知られていないが、台湾は高山と大森林を有する自然豊かな島だ。大平山(1950m)、合歓山西峰(3145m)、大雪山といった山々を巡り、登山、森林観察、バードウォッチングを織り交ぜながら楽しんだが、この靴はどんな動きにも柔軟に対応してくれた。

台湾エコツアー :緩やかな傾斜が続く合歓山の登山道。Katabatic LT Low GTXのおかげで快適に登れる


現在のところ、Katabatic LT Low GTXはシーンを問わずその機能性と快適性を存分に発揮してくれている。前述のように、どんな靴でも多少の不満はあるものだが、この靴に関しては本当に気になる点がほとんどない。しいて言えば、普段使いにはGORE-TEXインビジブルフィットはオーバースペックかもしれないことだが、それはそれで非防水モデルを選べばよい話だ。用途に応じて選択できるのも、このカタバティックシリーズの大きな魅力だろう。

数々の靴を試し、さまざまな山を歩いてきた経験を踏まえても、Katabatic LT Low GTXは際立って優れた一足だと感じている。短期間ながら実際に履き込んでみて、その性能と快適さには強く納得させられた。
とはいえ、靴の相性は人それぞれ。だからこそ、選択肢のひとつとして、ぜひ実際に試してみていただければと思う。

そして今、このObozというブランド、そしてその本拠地であるモンタナ州に強い興味を抱いている。モンタナは、ウィルダネス文化が根付く地であり、自然保護の精神が息づく場所。原生林と川が織りなす地形は、フライフィッシングの聖地としても知られている。「カタバティック」とは、そんな峡谷地帯に吹き下ろす、身を切るような冷たい下降風のことだそうだ。
この靴を生んだモンタナの風土とは、どのようなものだろうか?Obozの靴を履いて、モンタナのウィルダネスを歩いてみたいものだ。



Katabatic LT Low GTX
カタバティックエルティー ロー ジーティーエックス(防水)
30,250円

サイズ:25.5、26、26.5、27、27.5、28、28.5、29cm
カラー:Black Sea、Drizzle
重さ:350g(27.0cm/片足)

小原比呂志

屋久島アカデミー代表理事/エコツアーガイド

1962年北海道生まれ。屋久島野外活動総合センター(YNAC)を設立し、30年間にわたり屋久島のエコツアーガイドとして活動。 2022年一般社団法人屋久島アカデミーを設立。屋久島を島民と来島者とで楽しく学ぶ「屋久島大学プロジェクト」を運営し、地元行政機関等と協力して屋久島ガイドの養成にも携わる。 著作に「屋久島の民俗ガイド」「屋久島のコケガイド」「屋久島学 屋久島公認ガイド読本」(以上分担執筆)、「屋久島野外博物館フィールドガイドブック」などがある。

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