鈴木みき
イラストレーターなど
〈Katabatic Low〉US 6.5 / color : Nectar
プレスルームから持ち帰った2足、はじめに履いてみたのは「カタバティック ロー」だ。すぐ試したかったのもあるが、初めての非防水にビビッて山に行く前に街履きすることにした。靴が軽いと足取りも軽快、明るい色のせいか何となく気分も明るくなるようだ。
歩き出してまず感じたのが、ツブツブしているアウトソールのパターンがまるで柔らかいスパイクを履いているようで妙に気持ちがいい。それでいて乾いたアスファルトやビルの床でのグリップはよさそうだ。
数日後、雨が降ったので勇気を出して履いて出た。「非防水といってもアウトドアシューズだし…」と、どこか期待していたところがあったがすんなり湿ってきた。ウールの靴下を履いていたのでビショビショというより「濡れている?」くらいの体感だったが、防水の靴ばかり履いているため不快感は否めない。とはいえ街のちょっとした雨であれば、水溜まりにでも入らない限り大きな問題ではないのかもしれない。ただやっぱり私は湿った履物は苦手だ。
後日、舗装路とトレイルがミックスした日帰りハイキングへ行った。早朝に降った雨の影響で、滑りやすい粘土質の道や濡れた木道を歩いたが、瞬発的なグリップはよかったと思う。逆に、滑るまいとヌル~と足を置いたり耐えてしまうと滑力に負ける感触があったのでビビらず歩を進めることだ。それがこの靴の得意とするところなのだから滑ったのは私の歩き方のせいだろう。
前半湿った土の道が多かったせいか、歩いている途中で靴下が湿ってきた。汗の可能性も考えられるが、いつもより遅いペースだったので外側からの影響ではないかと思っている。しかし天気がよかったので、後半乾いた舗装路を歩いているうちに気にならなくなった。
汚れが目立つカラーが心配だったが、意外と汚れが残らなかった。素材の特性だろうか。
履き始めてから(毎日のように履いて)約1ヵ月の現在。
初日から数日で新しい靴の違和感もなくなったが、いまはさらに馴染んできて(少し緩めにした)紐を結んだまま着脱できるようになった。紐は一度も勝手には解けていない。カカト部分が形状記憶のようにへたらず硬さを保っているので、見た目はもちろん機能も保持している。
ほかの靴を履いた時にObozのインソールの柔らかさを実感。そしてまだ汚れが目立たずきれいなままだ。最初は躊躇したカラーだったが、取り入れてみると案外洋服に合わせやすくオシャレに見える。気がする(笑)
〈Sawtooth X Mid B-DRY〉US 6.5 / color : Rockfall
お次は「ソートゥース エックス」。四半世紀以上「登山」に親しんできた私にとっては何足試したか分からないカテゴリーの靴だ。最初は街履きで様子見、2度目は北海道の山を2つ歩いてきた。
おもに公共交通機関を使って山に行く私は家から登山靴を履いていきたい。だから舗装路でのストレスが高い靴はマイナスポイント。こちらもとりあえず街で試してみた。
普段からアウトドアシューズを多用しているため、歩き心地に違和感はないがミッドカットの高さが邪魔に思う人は多いかもしれない。履いてみると意外とシュッとした見た目で悪目立ちしないような。前編でも書いたが「普通」なのが街でも功を奏している。
本降りの雨の時にも履いてみた。こういう日は「防水」の安心感がある。雨水が侵入したとは思えないが、少し湿度を感じた。まだ暑い時期だったので汗をかいたのかもしれない。
山で履いたのは10月の北海道。2日連続で日帰り登山2座、コースタイム各約4時間と約2時間程度。
足首まである靴は空港の保安検査場で脱がないとならない。それが面倒で東京からの移動はスーツケースに入れた。高さも硬さもあるためかさばるが荷物の重量制限があるLCCでは軽いのが助かる。
私は山を登っているときに登山靴の紐をきつく締めない。これは長年の習慣なので万人におすすめはしないが、足首にかかる紐(上から2つ)はほとんど締めずに足首はアソビでゆるゆるだ。そのため靴を地面に対してフラットに置いて登らないとカカトがカポッと抜けることがある。それがなんと「ソートゥース エックス」、抜けなかった。試しに足首まで締めてみたところ、カカトの収まり具合そのままに足首のホールド感だけが上がった。ふむ、これはいい。
2日目の山は「カタバティック」のとき同様に雨のあとでかなりぬかるんでいた。とくに下りは滑りそうで怖かったが、同行者たちに比べると落ち着いて歩けていたように思う。凸の高さが効いていたのかもしれない。
そのときに泥がかなり靴底に詰まったが、下山して少し乾いてから叩くと大きな塊でボロボロとほとんど落ちた。
濡れた落ち葉も滑りやすいがヒヤッとすることはなかった
ソール全面を押し当てるように使えば、岩場のグリップもグッド!
少し気になったのは「蒸れ」。多くの登山ブーツで感じる程度だとは思うが、いま履いているものに比べて感じたので書いておく。とくに2日目。連続使用だったからか、泥道のせいか、蒸れを感じて下山して車に乗るとすぐに脱いでしまった(脱ぎたくなった)。秋の北海道にしては気温が高かったとはいえ、今後東京近郊の山に行くのにドア to ドアで履きたい私にとっては少し心配材料だ。
総じて、とてもいい登山靴であったと思うし不満はない。
「不満がない」を越えられたかは、この回数だけでは言えないが自分には合っていた。最初の印象や足入れした時の直感が、プレスルームとフィールドでほとんど変わらなかったのも信頼できるポイントだ。
来春はゴアテックスを採用したカタバティックが登場するとのことなので、靴に防水性を求める私のような人にとっては吉報だ。さらに山にObozを履いていく機会が増えそうで楽しみである。
〈これからObozを履いてみたい人へ選び方のアドバイス〉
前提として、クラフトマンシップを感じるとても信用できる靴だと思います。
靴は足のかたちとの相性が大事なので、すべての人にフィットするとは限りませんが、ヨーロッパスタイルの硬い靴や日本の幅広靴でないと落ち着かないということでない限りは試してみる価値があるでしょう。
初めての登山靴を探しているなら「ソートゥース エックス」が、オーソドックスで汎用性が高く誰にでもおすすめしやすいです。
これ一足あれば、日帰り登山から山小屋泊登山までのステップアップにすべて付き合ってくれるはずです。値段もインソール内蔵ということを考えれば良心的なのではないでしょうか。カカトのホールド感が強いのでファースト登山靴には付き物の靴擦れのリスクが低いんじゃないかと感じています。
登山靴の買い替えを検討しているなら、「ソートゥース エックス」か「カタバティック ミッド」がいいでしょう。
お持ちの登山靴が「ソートゥース エックス」に似たタイプで履き心地が気に入っていれば「ソートゥース エックス」、硬さを持て余しているなら、アッパーが柔らかい「カタバティック ミッド」にチャレンジする時かもしれません。定期的に登山しているなら少し柔らかい靴のほうが歩きやすいことがあります。
まだ今の靴が履ける状態なら、履きつぶす前に「カタバティック ミッド」を導入して、シーンによって履き分けるのもアイデアです。
今回「カタバティック ミッド」のモニターはしていませんが、日帰りのライトハイキングと森林限界を越えない登山が中心の今の私にはもっとも出番が多そうだと思っています。
ただ、女性は年齢とともに骨密度が落ちます。もともと足首をくじきやすい、膝が必ず痛くなる、また登山経験が少ない人も含めて、体幹や脚の力が弱い人はホールド感が強い「ソートゥース エックス」にするのが無難かもしれません。
「カタバティック ロー」は荷物が軽い登山をする人(ランも含む)はもちろんですが、インソールが気持ちいいので徒歩移動が多い人、ウォーキング、ファッション的にもかわいいので何も気にせず普段使いもいいと思います。グリップがいいことは街でも役に立ちます。当然アプローチシューズとしてもいいですね。
今までミッドカットを履いていて、ローカットに挑戦してみたいという人にもおすすめできます。ソールが比較的しっかりしているからいきなり軟らかいアクティブな靴はちょっと…という人にいいと思います。ただしアッパーは一般的なローカットのトレッキングシューズより軟らかいのである程度山に慣れた人向けといえます。
防水か非防水かは好みだと思いますが、ご自分がよく行く山域を思い浮かべて、万が一濡れたらどんな感じになるか想像してみましょう。「濡れ」は場合によって低体温症等の事故に繋がります。適材適所で使い分けるといいのではないでしょうか。
私は「軽量」や「速い」というワードに鈍い昔ながらの登山者でありますが、こうして山のスタイルが多様化して、誰もが自分で自分に合ったものを選べるようになったことを嬉しく思います。これまでの「登山」の固定概念にとらわれず、本当はどんな靴が自分のスタイルに合うのか、考えて探してみるのはきっと面白いですよ。
Katabatic Low カタバティック ロー
23,100円
サイズ:23, 23.5, 24, 24.5, 25, 25.5cm
カラー:Nectar
重さ:284g(24.0cm/片足)
Sawtooth X Mid B-DRY ソートゥース エックス ミッド(防水)
31,900円
サイズ:23, 23.5, 24, 24.5, 25cm
カラー:Rockfall
重さ:462g(24.0cm/片足)
鈴木みき(すずき・みき)
イラストレーターなど
Instagram: @mt.suzukimiki
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